何を隠そう、認知科学、システム神経科学に興味を持ったのは、この人の本を読んだからだ。「脳は何かと言い訳する」だったか、とにかく頭がいい人だと思った。
僕は、人の賢さって何かと言われたら、その一つに「教える能力」があると思っている。つまり、専門家、一般の人、学生など、様々なカテゴリーの人たちに、時には違う形で語りかける言葉を持っている人。
「単純な脳、複雑な私」の中で池谷先生は、「脳は同じ回路を使い回す」という表現をされていたはず。つまり、研究とはニュートンのリンゴのようなシンプルな仮説から始まるのだということ。もちろん背景を全て語り尽くすには実験に実験を積み重ねないと行けないのだろうが、こんな風に(本を通して)語りかけてくれる人はいなかったと思う。
前置きが長くなったが、そんな池谷先生が講演に来ていただけたのである。
テーマは「神経回路をメゾスコピックな視点から捉え直す」うーん、難しそう。
でも、話はとてもわかりやすい。
シナプスの働きは、アナログ回路をデジタル回路につなぎかえるようなもので、そのためには上流のニューロンからの同期入力が必要である。自発的なニューロンの活動には法則性があり、その一つの大きな特徴が、対数正規分布に従うシナプス結合強度を持つニューロンの存在である。これは、「世の中は、ごく一部の金持ちと、大多数の貧乏人からなっていて、ごく一部の金持ち(結合強度の強いニューロンのネットワーク)は安定している。」のと同じである。
面白かったのは、100人の人が10ドルずつ持っていて、ランダムな1人に1ドルを渡すという行為を繰り返したときに、最終的にはたくさんお金を持つ数人と、持っているお金が減る多数に分かれるという話。この出典が調べてもよくわからないのだけれど、
「すべて平等な条件で行われる試行でも、数を増やしていくと自然と不平等になる(対数正規分布に従う」という話。なるほどーー。だから、脳もそのシステムを採用しているのか、というすごい説得力のある話。
80対20の法則で、「研究室の8割の業績は2割の人があげる」という話。
「脳、お前もか・・・」には笑った。
しかし、その少数の強いシナプスだけが情報を伝えるのに必須なのではなく、やっぱり
広範囲に可塑性を示す「弱いけれど揺らぐニューロン」がないと、人間はダメらしい。
池谷先生の説では、「記憶とは弱いニューロンの作る背景ノイズの変化による回路の形が変わる事」という説は、とても夢があるものだと思った。質感・クオリアを感じる事が人間がもつ「特殊技能」であるとすれば、莫大な「弱いゆらぎニューロン」が持つ「情報の質的多様性」こそが、巨大な脳を持つ人間に許された本質的豊かさなのかもしれない。
ホント、感動しました。
最後に、池谷先生の素晴らしさは、このホームページの言動にもあらわれています。
本当の科学者にはなれないけれど、こういうのにワクワクできるということをしあわせに思うし、若い小児科医にも伝えていければと思う。
http://gaya.jp/media/what_is_science.htm#D1
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