2013年9月6日金曜日

橋本治 初夏の色


橋本治の最新短編集。どこにでもいる家族の肖像と日常を、そのディテールまで繊細に描かせたらこの人の右に出るものはいない。

そして、今作は震災を通して、人間の心理の変化や関係性の変化を切り取った作品が多い。「助けて」や「海と陸」で描かれた「震災後」の情景の1つは、どこまでも続く「無」への恐怖であり、「在」であった陸が震災によって「無」になったことの絶望感が人間の心理を通して情景とともに伝わってくる。

「海と陸」で描かれる、自分の感情に正直に生きる強い女の葛藤と、そんな女が「どうとも思ってない」男だから馴れ馴れしく抱きつくことができるという不思議さ、というのは男と女のリアルな関係性だ。「小舟に乗って海に出る女を陸から見ている男」。男って悲しい生き物だ。

 そんな男女の関係をもう一歩進んで描いているのが「枝豆」。「草食系男子」の定義についてあーだこーだ言いながら、男は自分の中に眠っている性欲という「内部的な暴力」をどう扱って良いのかに悩む。いわゆる「草食系優位」の世の中では、男は「動物」と「社会的人間」の狭間で、自らの内部的な暴力を「自制」することをデフォルトとするため、「女性に対して性的関心がある」という事実を裏付ける「内的欲望」が育たない。なるほど。社会的な生き物として「人間」を見るとき、女性は内的に「愛着」を持っている。オキシトシンを出すしね。一方男性は、内的に「動物的欲求」を強く抱えている。月並みに言えばドパミン優位ってこと。うーん、でも、男性が社会性を獲得するのと自分の内的欲求に気付くのと、どっちが先になのだろうか??

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