2013年9月26日木曜日

「コミュニケーション能力がない」と悩むまえに 貴戸理恵 を読む


岩波ブックレットシリーズ。時代の変化に伴って、モノ作りからサービス業への職業スキルの転換があり、それに従い、社会性やコミュニケーション能力というものが話題になる機会が増えた。社会性とコミュニケーションの障害である自閉症も、その軽症型を含めたスペクトラムとしての疾患概念が認知されて久しい。
 筆者は不登校やひきこもりの背景にあることを「関係性の生きづらさ」とし、その原因を考える。生きづらさのタイプを、1)学校や仕事などのキャリア, 2) 病、障がい、老い、性嗜好などの弱さ の2つに分類し、さらにA) 市場原理、B)社会の仕組み C) 当事者性 の3つの重視する立場を定義して、生きづらさを理解するための考え方を6通りの立場から呈示する。この分類が非常に分かりやすい。自分が常々、どの立場から彼らのことを見ているのか、ということにも自覚的になることができた。自己責任論、優生思想は、A)市場原理を重視する立場、貧困や格差という不平等を重視する社会要因論、病・老・障がいなどの「弱」を福祉的に支えるという社会保障的立場は、B)社会の仕組みを重視する立場、依存症の自助グループ、グループホームなど「弱さの承認と、同じ境遇の仲間との共同」は、C)当事者を重視する立場 である。

 どの立場から見るのが「正しい」のか、の答えはない。できることは、「立場が違えば見方が違う」ということを認めるだけだ。「関係性の生きづらさ」を理解するためだけに、これほど多様な視点があることを知るだけだ。しかし、筆者は、自らの不登校=生きづらさ体験を終章でカミングアウトしながら、生きづらさを抱えていない、もしくは、努力によって生きづらさを克服した「わたし」の当事者性について言及する。

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